先日、四天王寺骨董市へ行ってきました。四天王寺骨董市は、毎月20,21日に大阪市の四天王寺で開催されています。境内には骨董品から日用品、飲食などのお店が数多く並び、沢山の人々が訪れます。
地下鉄谷町線、四天王寺前夕陽ヶ丘の駅から改札を抜け階段を上ると、強い日差しに目が眩みました。9月も下旬だというのに、夏のような暑さです。建物が作るわずかな日陰を、日傘の群れに混じりつつ、四天王寺に向かって歩きます。少し先を、ベビーカーを押している若い夫婦が歩いています。妻はハンディ扇風機を自分の顔に当てながら、ちびちゃんが日陰に入るよう、ベビーカーを押す夫に手振りで指示しています。
四天王寺骨董市に行くのは3回目です。開催日は20,21日と決まっているため、来られるチャンスは多くありません。特に目利きができるわけでもなく、お宝を探そうという気概もないので、「行くか!」と思う頻度も実はそれほど高くありません。今回もたまたま動画で情報が流れて来、ちょうど日曜だったので、なんとなく行くことにしました。
なんとなくとは言うものの、目的はあります。味噌汁用のお椀と、丼です。どちらも持っているのですが、過去にペアであったそれらは、経年劣化と取扱いの荒さが原因でヒビが入り、割れてしまいました。ひとつでも特に不便を感じることはないので構わないのですが、なんとなく食器はペアで持っていたいのです。特別なものを探しているわけではなく、ネットでも十分探すことはできるのですが、口実はあったほうがいい。なぜなら口実がないと、わざわざ出かけないからです。小さくても口実をつくって外の空気に触れ、歩く機会を持たないと、ストレスと脂肪が溜まってしまいます。
昼前ということもあって、すでに境内は店でいっぱいです。参道の両脇に、ぽつぽつと、あるいは重なりあうように連なって、店が並んでいます。目当ての品物がどこにあるのか、それともないのかわかりません。なので虱潰しに店を見て回ることにします。
境内に入って5分、予想外にあっさりと、味噌汁用のお椀が見つかりました。比較的規模の小さな店先の、古い竹かごに、無造作に転がっています。かごの中には「100円」と書かれた紙が、お椀と一緒に入っています。お椀を手に取ってみると、家にあるものよりも一回り小振りです。でもプラスチックではなく、木でできています。小さくても木製のお椀が100円なのは、なかなかお買い得という気がします。プラスチック製品よりも木製品のほうが断然好きなので、ほとんど迷わず購入することにしました。かごの中から適当に2つ取り、ポータブルチェアに腰かけたおばちゃんに渡します。ナイロン袋にいれてもらい、200円を支払いました。袋は要りますか、などと訊かれることがないのは、面倒がなくて良い。
あっさりと目当ての品のひとつが手に入り、ほくほくしながら他の店を見て回ります。通りすがりに気になった店があれば立ち寄り、さらりと見ていきます。露天ですが、個人の店舗に違いなく、見るだけ見て何も買わずにひっそり出ていくことに、ひとかけらの後ろめたさを感じます。いらっしゃいませやありがとうございましたなどの声かけもほとんどなく、「来るも去るもご自由に」という雰囲気ではあるのですが、後ろめたさは消せません。かといって不必要なものを買うわけにもいかず、結果、遠目で眺めて気になったものがあれば店に近寄ってみるという、消極的なスタイルをとることになります。
一体誰が何を買うんだろうと首を捻りたくなるような、わずかなガラクタのみを置いているような店もあり、どうやって利益を出しているんだろうと不思議に思います。わざわざ荷物を運んできてテントを広げ、店を出すという手間暇をかけているのだから、もちろん誰かが何かを購入しているのでしょう。市は6:00からはじまっているので、昼も間近という時間帯では、めぼしいものはすでに売り切れているのかもしれません。売れてしまっためぼしいものを見て見たかったような気もしますが、朝早く起きることは何よりも苦痛なので、これからも叶うことはないでしょう。
300~600店ほども出店しているという大規模な市ですが、私のように目利きもできず、大した目的も持たない者がさらりと冷やかして回るには、それほど時間はかかりません。とはいえ、小一時間ほどは歩いたでしょうか。持ってきた500MLのお茶も、ほとんど飲み干してしまいました。かき氷やアイスコーヒーなどのお店も出ていて、食べ歩く人たちの姿も多く見られます。威勢の良いおばちゃんが作る、パックの蓋が閉まらないほど山盛りに入った、美味しそうな焼きそばが目を引きます。購入を迷っているらしい女の子たちに、「うちはいつでも山盛りサービスやねん。美味しいから頑張って食べや!」と声をかけています。飲食店が並ぶエリアには、テーブルとイスも用意されていて、まばらに座った人たちが食事や休憩をとっています。
いつの頃からか、でみせの食品を食べることに抵抗を覚えるようになったつまらない大人の私は、何も買わずに通り過ぎます。
さてそろそろ、梅田でうどんでも食べて帰ろうか、と考えながら元来た道を山門に向かって歩きます。その途中、地面に直に置かれた木箱のなかに、数本の包丁が入っているのが目に留まりました。かがみこみ、そのうちの一本を手に取ります。軽い。持ち手が木でできていて、刃には波のような模様が入っています。箱のなかの包丁は、すべて同じもののようです。店じまいをした料理屋からでも買い取ったものでしょうか。もちろん包丁は持っています。でも急に、もう一本あってもいいよな…と思い始めました。
「すいません。コレいくらですか?」
店主と思われるおじさんに声をかけます。
「1800円」
1800円か…高くもないけど、とりたてて安くもないような。でも今使っているものよりも軽いし、なによりハンドルが木でできているところが良い。悩みつつ包丁を眺めていると、店主が、
「それ、いいよ。堺の職人の手づくりやし。硬いものはあかんけど、よぉ切れるし。買って行ったら喜ばれると思うわ。」
と重ねてきます。なぜか私が使うとは思われていないようです。でも値段を聞いた時からほぼ気持ちは固まっていたので、買うことにしました。「おおきに!」2000円を渡し、紙にくるまれた包丁と500円の御釣りを受け取ります。あれ?1800円じゃなかったっけ。自分の聞き間違いか記憶違いの可能性が高いので、あえて何の反応もせずその場を後にしました。
梅田のお気に入りの店できつねうどんを食べて家に帰り、包丁をじっくり眺めてみました。店主の話を聞きながらなんとなく見ているときには気づかなかったのですが、包丁には「奈良 菊一 手作」と銘打ってありました。え?奈良じゃん。ネットで調べてみると、菊一とは「菊一文珠四郎包永」という、750年の歴史を持つ奈良の刃物屋さんの銘でした。刃物作りで有名な堺の包丁、が決め手で買ったわけではないので別にいいのですが、適当やな、あのオッサン…こうなってくると、500円のお釣りも、単純に間違えただけなんじゃないかと思えてきます。
砥石で包丁を研ぎ、野菜を切ってみると、おぉ。思ったよりもさくさく切れます。このままでも十分使えるのですが、せっかくなので一度、専門の砥ぎ師の方にお願いしてみようと思っています。切れ味がどう変わるのか楽しみです。
毎月20,21日に四天王寺で開催される骨董市、頭がくらくらするほど多種多様な品々に触れることができます。小雨程度なら開催されるそうです。もういちど出会えるなら包丁をもう一本買い足したいところですが、期待はできないだろうなぁ。骨董市での出会いは一期一会。皆さんもぜひ、お宝との出会いを求めて足を運んでみてはいかがでしょうか。




