あべのハルカス美術館へ行く

ぼちぼち日記

「なにか美しいものが観たい」と小生意気な欲求を美術館巡りが趣味の友人に呟いたところ、「あべのハルカスで歌川広重の展示やってるよ」と教えてもらったので、先日鑑賞してきました。

例にもれずの猛暑日でした。目の前を歩く手を繋いだ若いカップルを見て「こんな日にわざわざ外デートせんでもいいのに…」と余計なことを思いながら首筋に噴き出る汗を拭います。

前もって友人に「めっちゃ混んでるよ。並ぶよ」と脅されていたので「小一時間程度なら並ぼう。小二時間なら…考えよう」と中途半端な決定をくだし、あべのハルカス16階を目指します。いつもながらエレベーターのエレガントな乗り方がわかりません。添乗員さんがおらず、皆がめいめい好きな場所でエレベーターのランプを仰いでいるようなところでは、なおのことルールがわからず挙動不審になってしまいます。「大型エレベーターホールなんてどうってことないぜ!」とポーカーフェイスを装いながらなんとかエレベーターに乗り込み、16階に到着。なかなかの人混みでさっそくげんなりしたけれど、ここから展望台へと向かうエスカレーターもあって、結構そちらに人が流れている様子。チケットもスムーズに購入でき、少しも待つことなく美術館へ入館できました。待ち時間がなかったのは、猛暑の影響でしょうか。命を取りにきてるレベルの猛暑に、ちょっとだけ感謝。

薄暗いフロアでは、スーツ姿の学芸員さんが「順路に関係なく自由にご覧ください」と書いたプラカードを持って回っていたので、よしきたとばかりに空いているところを目指します。浮世絵版画にも歌川広重にもまったく詳しくない私の感想は「線がきぱっとしているな」でした。マンガで言うと富樫義弘とか芥見下々みたいな。どうやらそれ(均等でまっすぐな線)が歌川広重の作風のひとつらしく、同じく浮世絵版画で有名な葛飾北斎は「自分の下絵通りの線を引いてほしい。歌川さんみたいな線じゃなくて」と彫師に注文をつけていたとか。原画が最も重要なのはわかりますが、彫師と摺師の技術もすごいですよね。当時の版画は絵師、彫師、摺師の分業制だったらしいけど、後世に大きく残るのは絵師の名前のみ。絵師は芸術家、彫師や摺師は職人で、職人の技術は訓練次第で習得できる、ということなんでしょうか。とんでもなく細かい線が密集していて、これを彫ることを想像するだけで肩こりがひどくなる気がします。着物の柄とか緻密すぎ。職人さん、スゴイ。

描かれている人々の表情がどれも楽しそうで、ユーモラスだなと感じました。子供の頃に遊んだ「ウォーリーを探せ!」という本を思い出します。浮世絵版画は庶民が江戸に旅行に来た際のお土産として購入されていたそうなので、あえて庶民に親しまれやすい絵柄にしているのかもしれません。子供に買って帰るお父さんもたくさんいたのではないでしょうか。値段もお手頃だったそうです。

帰りに美術館の出口近くに設置されている売店で、ポストカードを購入しました(だいたい何か買ってしまう。うまい場所に作られてるよなー。)購入した何枚かのうちの一番のお気に入りは「名所江戸百景 深川萬年橋」です。この作品はインパクトが強いというか、「なんで?」と興味を惹かれる風景が描かれています。吊るされた亀がまるで富士山を眺めているような、不思議な風景です。

これは富岡八幡宮の祭礼、放生会(ほうじょうえ)のために売られている亀の姿を描いたものとのこと(後から調べ。)亀は手桶の持ち手から紐でくくられて吊るされています。桶の中には放生会のための生きた魚が入っているらしいです。亀は逃げてしまわないように紐で吊るされているのだとか。放生会は生きた魚や亀を川に放すことで徳を積むという儀式だそう。今でも福岡県の筥崎宮ではお祭りとして、毎年盛大に開催されているそうです。発祥は大分県で、そこから全国に広がっていったとのこと。知らなかった…風習を知らなければ、なんで亀を吊るしてるの?亀は一体何してるの?どんな趣味なの?とただただ不思議な風景ですが、知れば納得できますね。歴史の勉強も大切なんだなぁ。そして描かれている場所は現在の東京都江東区にある萬年橋(この当時と今では橋の位置が10メートル程違うそう)だそうですが、この当時、東京(江戸)からこんなにはっきり富士山が見えたんですねぇ。

「あべのハルカス美術館開館10周年記念 広重 ―すりきわみ―」は9月1日まで開催、8月6日からは展示内容が変わっているらしいので、また足を運ぶ予定です。めっちゃ暑い日に行ったろうかな。

撮影可の作品。キノコみたいな丸い笠
坂、急すぎ
行商でしょうか