まだ梅雨入りしてすぐの頃の話になりますが、京都のくらま温泉へ行ってきました。だいぶ記憶が薄れていますが、自分が書いたプロフィールのせいで「家からほとんどでてないんでしょ?少しは外に出掛けたほうがいいんじゃない?」と心配していただくことがあるので、「たまに出ています」という証明として、ぼやけた記憶に目をこらして書いておこうと思います。
さて、家を出ると薄灰色の曇り空。あいにくの空模様ですが、今回の目的は温泉なので、雨が降ってもあまり問題ありません。もしもこのまま降らなければ、温泉から坂をくだってすぐの鞍馬寺を参拝しよう、とラフな計画を立てて出発です。
阪急電車から京阪電車、さらに叡山電鉄に乗り換えてしばらくすると、ぽつぽつと雨が窓を濡らし始めました。こりゃ今日は温泉でのんびりやなぁと、嬉しいような残念なような気持になりつつ、深くなっていく緑の景色を眺めます。緑は美しいけれど、ここに住むのは不便かもな…切れ切れにに現れる民家たちの屋根を見下ろしながら考えます。
終点の鞍馬に到着したときには、傘が必要な雨模様。すぐそこに見えている送迎バスに乗り込むためにリュックから折り畳み傘を取り出そうか迷っている私の横を、すいっと迷いなく傘をさして歩いていく人々。後ろ姿が緩やかな下り坂の先に次々と消えていきます。この辺りには温泉と鞍馬寺、お土産屋さん数店くらいしかないと思うけど、皆さんお寺へ向かっているのでしょうか。雨降りでも構わないんだなぁと感心。私なら予定を変更する。絶対屋根のある所へ行く。
私が濡れるほうが傘が濡れるよりましだ、という結論に落ち着き、傘はささずに送迎バスに駆け寄ります。乗り込んでしばらく待つも、乗客は私だけ。やはりみんな寺が目的なのか。結局バスは私だけを乗せて、ほんの数分で温泉前に到着しました。運転手さんが差し出してくださった傘に入って、玄関へ進みます。
くらま温泉は、2024年11月にリニューアルオープンしたそうです。鍼灸学校在学中(10年以上前)に妹と来たことがあるのですが、もはや記憶は遠く、「くらまに温泉あったよな」ということくらいしか覚えていませんでした。フロントで露天風呂の入浴券を購入します。他にも内風呂とサウナも入れてタオルとルームウェアがついてくる券もあります。私はサウナはしんどいし内風呂はのぼせがちなので、露天風呂だけの利用です。
フロントのすぐ右手には食事処があります。風呂上がりにこちらでビールと鶏なんばうどんを食べることも、今回の重要な目的。営業時間を受付の女性に訊ねると「ラストオーダーは14:30です」とのこと。時計をみると13:50…のんびり風呂に入ってる時間はない。予定を変更して、先に食事処へ向かいます。鶏なんばうどんは絶対に外せないのです。
お好きなお席にどうぞ、と案内され、せっかくなので庭が見える窓際に座ります。注文を取りに来てくれた店員さんに、生ビールと鶏なんばそば、セットに鯖寿司を注文。鶏なんばうどんはそばに変更できるということなので、なんとなくそばのほうが身体にいいと思いがちな私はそばに変更しました。料理が出てくるのを待つあいだ、雨が続く窓の外をぼんやり眺めます。ラストオーダーが近いためか、空席が目立ちます。そしてお客さんは外国の方が多い。多いというか、店員さん以外100%。こんな山奥になぁ。山奥だからかなぁ。先に出していただいたビールを三分の一ほど飲んだ頃、念願の鶏なんばそばと欲に負けて急遽追加した鯖寿司が届きました。鯖寿司には醤油がついてなく(お願いすればきっと持ってきてくれるだろうけど)、あっさりしたしゃりの上に、この地域の名産品である木の芽漬けが乗っています。山椒の佃煮といった風味です。ビールはもちろん、そばと鯖寿司を美味しくいただき、「やっぱうどんにすればよかったな…」と自分のうどん好きを思い知らされつつ、次はいよいよ温泉です。
露天風呂は本館とは別の建物です。フロント前で脱いだ靴を再び履いて、一旦外へ出ます。小雨に濡れながらすぐ左手に見える階段をのぼり、雰囲気のある細い廊下を抜けると脱衣所です。わくわくしながらロッカーに服と荷物をしまい、いざ露天風呂へ!東屋がついた岩の露天風呂です。屋根がない設備もちょいちょい見られますが、風呂が一種類しかない場合には、あったほうが絶対にいいと思います。季節によっては顔や頭が灼けて長く入っていられないからです。体をシャワーで流して、さっそくお湯に浸かります。ふぅ、とため息がこぼれます。なんたる解放感…これぞ露天風呂の醍醐味。景色もさることながら、外で風呂に入っているというこの非日常感が堪りません。庭の緑と小雨にけぶった山の緑、湿った土と風の匂い、そして温かいお湯。あぁ、癒される…至福…お湯の温度は私には少し高め。風呂の縁に腰かけて体を冷まし、またじっくり浸かって温める、を心ゆくまで繰り返します。周りはやはり異国のひとびと。湯船はひとつですが、混みあうことなく、ゆったりと静かにお湯を楽しむことができました。
温泉から上がる頃には雨もあがり、空には晴れ間が見えていました。これは参拝してけってことやなと捉えて、せっかくなので送迎バスには乗らず、のんびり歩いて鞍馬寺へと向かいます。ゆるりとした川沿いの坂をてくてく下り、坂の終わりのお店で先程鯖寿司に入っていた木の芽漬けと、あんこなしの蓬餅をひとつ買いました。
お店のすぐそばに鞍馬寺の入り口である仁王門があり、こちらで入山券を購入します。受付のおじさん(役職名は何と言うんだろう。わからなかったのでおじさんと表記。)に「貴船神社へ抜けるには、どれくらいの時間がかかりますか?」とお訊ねしたところ「1時間半です。どれだけ早くても1時間半」とにこやかに教えていただきました。鞍馬寺から映画「リバー、流れないでよ」の舞台ともなった貴船神社へは、山道で繋がっています。学生の頃からいちど歩いて抜けてみたいと思っていましたが、天候に恵まれず10年以上先延ばしになっていました。時計を見ると、日が暮れる前にはなんとか着けそうです。案内図を頂戴し、「頑張ります!」と訊かれてないけど決意を表明して、仁王門をくぐり、さっそく始まった階段を上ります。多宝塔へ続くケーブル駅前の自動販売機でお茶を購入。喉が渇くほどツライことはない。以前何の気なしに入った山で水分不足になり、川の水で唇を湿らせて乾きを凌いだ経験から、多すぎるほどの水分を持たないと安心できなくなった私です。
貴船へと続く山道の途中途中に塚や神社、お堂などがあり、「あぁもうしんどい!」となる前にいづれかに辿り着くことができます。そのたび立ち止まって手を合わせ、水分補給して一休みします。それにしても暑い。木がさえぎってくれるので直射日光にさらされることはあまりないのですが、とにかく蒸し暑い。カメラを抱えて前を歩く男性の背中に、シャツが汗でべったりと張り付いていました。私も額と首筋から溢れる汗を、小さすぎたハンカチで拭いながら歩きます。雨上がりの山道はぬかるんで、油断するとずるっと滑りこけてしまいそうです。こけたならもう次の段階に進んでいるからいいけれど、こけそうになって持ちこたえたときの、あのぞっとする瞬間が嫌い。こけるならこけたほうがすっきりする。怪我すると厄介だけど。
気が付けば山道は下りに入り、殊更慎重に歩きます。前を行く外国人のカップルが、「どうぞ」と道を譲ってくださいました。すれ違いざま、女性の方が「ひとり?」と訊ねてこられたので、はいと答えました。すると「えらいねー!」と褒めてくださいました。…同じくらいの年齢に見えました。その後も男性の方に「どうぞ!」と道を譲っていただきました。皆さん、「どうぞ」という日本語を覚えてきてくださってるんですね。せっかく譲っていただいたのにあまり遅くては申し訳ない、と心持ち歩調を早めます。道は整備されていて、とても歩きやすいです。頭を悩ませるような分岐もなく、安心して進むことができました。転倒することもしかけることもなく、無事西門を通り、貴船に到着。かかった時間は覚えていないけれど、予定通り暗くなる前に山道を抜けることができました。夕方なので、貴船神社の参拝は次の機会に譲り、駅までの舗装道路をてくてく下っていきます。貴船から叡山電鉄に乗り、リュックをおろすと、シャツの背中がびしょびしょになっていました。そのせいかはわかりませんが、後日軽い風邪症状が…(そしてジンジャーシロップを作るに至る。)
くらま温泉、いい温泉です。40越えの肌でもすべすべ、サラサラにしてくれます。さすが美肌の湯。肌寒くなる頃に、また浸かりに行こうと思います。一時間半の山散歩も、運動にちょうどいい。暑い時期でもそうでなくても、汗を拭くタオルやハンカチ、十分な水分、歩きやすい運動靴を履けば、快適に楽しく歩けます。早い時間から挑めば、夕方までに貴船神社も参拝できますね。次回は少し早く家を出て、貴船神社~鞍馬寺~温泉、というコースにしてみようかなと思っています。
そして次は絶対、うどんを食べる。
※画像はそれぞれ、くらま温泉HP,鞍馬寺HP様より拝借いたしました。写真撮ってたんだけど、全部保存し忘れた…
